建築計画および法的アプローチの再考 − 意見書2
倉知小学校等複合化施設整備計画3.0
2026年7月19日
倉知⼩学校等複合化施設整備事業
建築計画および法的アプローチの再考に関する意⾒書
NT建築計画事務所
沼⽥ 叡良
前回の意⾒書に対しまして、前向きなご返答をいただき誠にありがとうございました。今回のプロジェクトが速やかに、かつ適切な検討を経て、本来あるべき素晴らしい⽅向へと推進されることを⼼より期待しております。今後の計画推進にお役⽴ていただきたく、問題点の修正と最適案の追求に向けた補⾜として、以下の通りお伝えいたします。
はじめに 計画修正に対する柔軟な姿勢と⻑期的視点
ご返答⽂の⼀部に「これまでの検討に基づき決定されている部分も多く、」との表記が⾒受けられますが、⼤規模な複合⽤途施設の設計計画は、多⾓的な与条件を同時に満たす「連⽴⽅程式」を解くようなものであり、⼤変複雑で多岐にわたる検討を要します。そのため、適合すべき法規、防災性、利⽤者の利便性といった重要な条件に新たな課題や乖離が発覚した段階で、⼀度全体計画に⽴ち戻って再精査することは、建築設計のプロセスにおいて⼀般的かつ健全な作業です。
この⽴ち戻りは決してこれまでのご検討を無駄にするものではなく、より⾼次な最適解へ向けてプロセスを前進させるための有効なステップです。前回もお伝えしましたように、本計画の進め⽅において⼿法や順序の精査が必要な部分があったことも事実であり、その結果による不便性やリスクを、将来にわたり⻑く利⽤する⼦どもたちや住⺠の皆様に負わせることになっては、本来の住⺠サービスから逸脱することになりかねません。仮に、法的検討や特定⾏政庁との申請⼿続きのために、数ヶ⽉(〜半年)程度の期間が追加されたとしても、今後50年から80年という極めて⻑い未来にわたり地域を⽀え続ける公共施設であることを考慮すれば、⼗分にかける価値のある時間であると考えます。すべての利⽤者にとって本当に⼼地よく使いやすい、誇れる施設を⽬指して進んでいただけることを切に願います。
1.現時点における⽇影規制への対応と「ただし書許可」の正統性
前回の意⾒書(2026年6⽉11⽇提出済み)にて指摘いたしました「④5. ⽇影規制対応における外構計画の再考」について、建築基準法第56条の2第1項ただし書き(⽇影規制の特例許可)を適⽤し、不⾃然な盛り⼟を回避すべき法的・計画的理由を整理いたします。
(1)実質的な⽇影環境の「不変化」
建物の周囲に盛り⼟(⼈⼯地盤)を施せば、法⽂上の平均地盤⾯を操作して数値をクリアすることは可能ですが、近鄰に及ぼす実際の影響を検証すると「盛り⼟を⾏って法定クリアさせた影」と「⾃然地盤のまま建てた影」で、⻄側・北側の隣地に落とす実際の⽇影の時間や形状は全く変わりません。本敷地は北から南へ下がる傾斜地のため、敷地全体での⼀括算定では不利な条件となりますが、新設の複合施設単体が周囲に及ぼす⽇影は、周辺の居住環境を著しく害するものではありません。
(2)公共建築としてあるべき正統な⼿続き
営利⽬的の⺠間施設であれば、盛り⼟による平均地盤⾯の操作(技術的細⼯)で帳尻を合わせる⼿法も散⾒されますが、本事業は⼩学校とコミュニティセンターという、極めて公益性の⾼い施設です。形骸化した数値合わせに終始するのではなく、実質的な影響を丁寧に検証した上で、法第56条の2の特例許可(建築審査会の同意)を受けることこそが、良好な環境形成を⽬指す法の本来の趣旨(精神)に則った正統なアプローチです。
(3)「(半)地下化」による環境悪化と⽔害リスクの回避
盛り⼟によって終⽇利⽤される最下階のコミュニティセンターが、ドライエリア付きの「(半)地下形状」となることは、⽇常の採光や通⾵、バリアフリー性(斜路の発⽣など)を著しく損ない、快適な環境とは⾔えなくなります。さらに⼤きな懸念は、近年の激甚化するゲリラ豪⾬や線状降⽔帯による「浸⽔・冠⽔リスク」です。災害時に地域住⺠の命を守る「指定避難所」となるべき公共施設において、排⽔等の設備は計算上安全に設計されるとはいえ、わざわざ⽔害リスクを⾼める(半)地下構造を選択することは、防災上の観点からも慎重であるべきだと考えます。
2.⾃治体としての課題と特例適⽤の可能性
関市におかれましては、本計画のような⼤規模かつ複合⽤途の公共施設における⾼度な法的緩和や特例許可の適⽤について、主体的な⽴場での運⽤経験や前例が多くなかったものと拝察いたします。そのため、今回は法律の⽂字通りの解釈に縛られ、盛り⼟による対応のみを考えて進められたのかもしれませんが、その⼿法は市⺠の安全や使い勝⼿という「公共の福祉」の観点から最善とは⾔えません。
建築基準法第56条の2第1項ただし書きの適⽤において、岐⾩県建築審査会の「包括同意基準(第4)」の3つの要件(1〜3)を機械的にすべて満たすことは、敷地全体の⼀括算定(地盤⾯の低下)の観点から⾃動的な適⽤とはならない可能性があります。しかし、同包括同意基準の冒頭に『基準に該当しない場合であっても、建築物の⽤途、規模、位置及び構造、敷地の周囲の状況等により⽀障がないと認められる場合については、建築審査会において個別に審査する』と明記されている通り、⾃動パスに該当しないからといって即『建築不可能』を意味するものではありません。
今回の「⼩学校・コミュニティセンター整備事業」は、特定⾏政庁(岐⾩県)の個別審査会において、特例許可を⼗分に得られる前向きな条件が最初から揃っています。
・ア ⾏政⾃らが推進する公的⽬的の事業であること(⾼い公益性・⼤義名分)
・イ 敷地が北・⻄・南の「三⽅道路」に接しており、⺠間隣地への実質的な⽇影影響が新設単体としてはわずかであること(単体としての⽇影基準はクリアしているということ)
・ウ ⾃然地盤を維持することで、利⽤者の利便性、快適性、そして防災上の安全性が最⼤化されること
これらは、個別の建築審査会において特例許可を申請・受領する際の、⾮常に強固で正統な理由となります。
設計ワークショップ配布資料(P8)の3案⽐較において、⾃然な現況地盤⾯で建設する案を単に“建築基準法上、不可能”としてしまっている点は、法律が⽤意している正規の救済条項(特例許可の個別審査ルート)までを含めた本質的な検証を尽くした結果とは⾔えず、⼤変もったいなく感じております。⺠間開発を指導するような杓⼦定規な視点にとどまることなく、今回は⾃らが出向いて市⺠のために理想を追求する当事者として、より広い視野に⽴って特定⾏政庁(岐⾩県)との個別の協議に臨んでいただきたいと考えます。
3.最適案の追求(市⺠・住⺠に寄り添う公共のあり⽅)
〈添付参照:計画イメージ(計画2.0 計画2.1 計画1.0)、計画イメージ⽐較、計画断⾯⽐較〉
本プロジェクトのこれまでの計画経緯を時系列で振り返ると、以下のようになります。
・(1)ステップ①:敷地南⻄に仮設校舎を作り、現況位置に複合施設を建てる案
・(2)ステップ②:建設費抑制および断層回避のため、敷地南⻄に4階建て複合施設を建てる案(※ただし、複合施設まわりに⽇影規制を満たすための盛り⼟を⾏うという条件付き)〈計画2.0〉
・(3)ステップ③(法趣旨への回帰):上記の条件に対し、法のただし書特例許可(個別審査ルート)を受けることで、不⾃然な盛り⼟を中⽌する案〈計画2.1〉
しかし、ここでさらに⼀歩踏み込み、本質的な設計計画として最適案を追求するならば、⽇影の影響だけでなく、使い勝⼿・利便性、景観(圧迫感)、建築構造、現況の地形維持、そして⼯事の観点からも、「建物を低層化(4階建てから3階建てへ)し、盛り⼟を極⼒減らす計画」が最も望ましいのではないでしょうか。
当初、2025年7⽉30⽇にご提案いたしました「倉知⼩学校等複合化施設計画」提案書〈計画1.0〉は、まさにそれらを満たした理想案であると考えます。実際、設計ワークショップ配布資料P8においても、「敷地⻄側 現況地盤での建設」案は⽇影規制以外のすべての項⽬で『◯』の評価とされており、⽔平配置の優位性が証明されています。
⼩学校とコミュニティセンターの複合化において、上下階に分ける垂直構成は、交流機能諸室のあり⽅やホール等の空間性(天井⾼)、セキュリティ・バリアフリー等の⾯で限界があり、必ずしも向いているとは⾔えません。2⽤途の⽔平配置であれば、上下ではなく「平⾯的(⽔平⽅向)に緩やかにつながり、相互に交流し、セキュリティも明確にする」ことが可能となり、これこそが関市の謳う今後の「⼩学校とコミュニティセンターのあり⽅(コンセプト)」に最も合致する考え⽅ではないでしょうか。
また、4階から3階へと⾼さを抑え、平⾯的に周辺と適切な離隔距離をとることは、特定⾏政庁へ特例許可を申請する際にも、「周辺への実質的な⽇影を⼤幅に減少させた」という⾮常に有効な理由(実績)となります。加えて、はじめにお伝えしました全体⼯程について、⼯事期間の短縮が⾒込まれます。
4.計画2.1に残る課題と総合的最適解(計画1.0リバース案)
〈添付参照:計画3.0〉
前述した計画1.0および計画2.1のメリットを内包しつつ、さらなる諸条件(連⽴⽅程式)を⼀挙に解決する最善⼿として、以下の通り「計画3.0(南中3階案)」を提案いたします。
(1)アクセス道路と拡幅ポテンシャルの有効活⽤
周辺道路の幅員は、⻄側が⼤、南側が中、北側が⼩であり、アクセスの中軸は⻄側道路に設定するのが適正です。現状、⻄側道路の北端から中程(敷地とほぼ同レベル)まではすでに拡幅がなされており、従前より⼤規模施設の出⼊り⼝として計画されています。このポテンシャルを活かすため計画1.0を東⻄反転させ、南⻄をアクセス・駐⾞ゾーンとし、「北:学校駐⾞場、中:児童・歩⾏者⼊⼝および広場、南:⼀般駐⾞場」と分けることで、周辺からの視認性・アクセス性を⾼め、⼈と2種類の⾞両(学校・⼀般)の動線を明確に分離・最適化します。
(2)周辺隣地・道路への⽇影影響の完全な無害化
⽇影の影響を⽐較すると、南⻄4階(実質)は△、南⻄3階は(◯)ですが、本案である「南中3階案(計画3.0)」は◯となります。南⻄4階建(計画2.1)は⻄側隣地へ午前の⽇影を落とし、南⻄3階建(計画1.0)であれば⼤幅に軽減されますが、この「南中3階案」であれば⻄側・東側とも隣地離隔を数⼗メートル確保されるため、東⻄隣地への⽇影影響は事実上皆無(ゼロ)となります。加えて北側の⽇影は既存体育館のみとなり、北道路側の⽇影幅は1/3程度に減少します。また普通教室の南側道路との離隔が増え豊かな緩衝地帯(菜園や緑地)を創出できます。
(3)敷地利⽤の合理化と将来の拡張性
本案では、南⻄をアクセス・駐⾞場、南中を複合施設、南東を既存プール(将来の駐⾞場拡張スペース)、北東をグラウンド(既存校舎解体部を埋め戻さず、北道路と南エリアの中央レベルで整地)として構成します。計画駐⾞台数は合計88台を確保し、イベント時はプール周りやグラウンド⼀部を仮駐⾞としますが、将来のプール解体後にはさらに約50台の増⾞が可能となり、学校職員やイベント時等の⼀般の利⽤が可能になります。
(4)複合施設としての使い勝⼿と空間性の最⼤化
⼩学校とふれあいセンターの双⽅が⻄側アクセスを正⾯とすることで、極めて明快で使いやすい諸室配置が実現します。両施設が平⾯的に接続されることで⽇常の相互交流が⾼まる⼀⽅、ふれあいセンターが求める機能空間(ホール等の天井⾼さ)についても、2階に配置することで構造的・空間的な合理性をもって実現可能となります。
結びにかえて
メインアクセスとは、建築における「か・かた・かたち」の「かた(⾻格)」そのものであり、本事業の⽬的や意義を技術化する上で、最も⾒落とされてはならない重要性を持っています。技術化の各段階において優先順位を「⾒える化」することによってのみ、正しい解答が導き出されます。これまでの初期の進め⽅に課題があったとしても、現時点において総合的な最適解が明確に⾒出された以上、⾏政事業の都合に縛られ、未成熟な計画のまま押し進めることは避けるべきです。
公共の建物として、毎⽇通う⼩学校とふれあいセンターを利⽤するすべての⼈々が、将来にわたり享受し続けられるものを、また今後市内各地区において続く「⼩学校とコミュニティセンターの複合化事業」の誇れる先鞭として、ぜひ特定⾏政庁との粘り強い協議を進めながら、共に創り上げていただけますよう⼼よりお願いいたします。
もし、これまでのプロセスに課題があったとされるならば、それを今後の建築⾏政の尊い教訓とするためにも、あるべき原点へと適正に⽴ち戻り、住⺠の皆様へ丁寧に説明と共有を⾏い、今後のお⼿本となるような誠実な取り組み⽅を推進していただきたいと考えます。理想の形、そしてより良い解決策が⾒えているからこそ、過去の経緯にとらわれる拙速な公共施設⾏政を進めるのではなく、未来に誇れる最上の建築を地域に遺していただくことを、⼼より切望いたします。
計画2.0イメージ(日影盛土アリ)
計画2.1イメージ(日影盛土ナシ)
計画1.0イメージ(2025.0730提案書)
計画イメージ比較(日影/盛り土/階数)
計画断面比較(日影/盛り土/階数)






