設計ワークショップ − 意見書
倉知小学校複合化施設整備計画 2.0
倉知小学校等複合化施設整備計画
設計ワークショップ意見書
2026.6.11
一市民として、将来に向けてより質の高い公共施設が効率的に整備されることを願い、以下の通り意見を提出いたします。
1.設計ワークショップのあり方と開催意義について(配布資料参照)
本年5月に開催された設計ワークショップに参加いたしました。開催前に管財課の担当者へ内容を確認したところ、「配置は確定しているため、建物内部の部屋配置(パズル形式)のアイデアを出してほしい。配置や建物外形という前提条件への意見ではなく、内部の調整を円滑に進めるための意見を求めたい」との説明を受けました。
当日の2時間に及ぶプログラムは、経過説明と基礎情報に1時間強、グループ討議に約40分、発表に10分という時間配分でした。基本構想段階でのブレインストーミングであれば、このようなワークショップ形式も一定の効果を期待できます。しかし、すでに実施設計段階にある本件において、専門知識のない一般市民が短時間で部屋の配置案を検討する手法が、有効に機能するとは思えませんでした。
AI活用をはじめとする技術革新や業務効率化が急速に進む現代において、なぜ事前に類型化(パターン化)された複数の検討案を提示し、それをもとに説明や意見交換を行うプロセスが取られなかったのか、疑問が残ります。
当日初めて目にする図面を前に、制限された建物外形の中で部屋の配置を求められても、専門的な視点から見れば極めて表層的な作業にとどまらざるを得ません。これでは「設計ワークショップ」の本来の意義が問われるだけでなく、市側の「市民参加」という形式的な実績作りのためではないかという懸念を抱かざるを得ません。
通常、設計の専門家は、与えられた条件のもとで膨大な時間を費やし、技術的知見に基づいた無数のアイデアを抽出します。その上で、作図・類型化・評価判断を重ね、発注者との対話を繰り返しながら、複雑な連立方程式を解くように最適な空間を創り上げるものです。市民参加を謳うのであれば、こうした専門的なプロセスを尊重した上で、市民が本質的な議論や選択に参加できるような場(例:専門家が導き出した複数案に対する評価や意見交換など)を設けるべきであると考えます。今後の事業推進においては、真に実効性のある市民意見の反映プロセスを強く求めます。
2.配置計画の重要性と未来への投資について
昨年11月に開催された関市の「地域ミライとーく」において、配置を含む全体計画に対し、市基本構想の問題点を客観的に指摘した上で意見提言を行い、提案書を提出いたしました。今回のワークショップにおいては、その提案趣旨が一定程度反映された配置計画が提示されることを期待しておりました。しかし、提示された内容は、総事業費約60億円もの巨費を投じるにもかかわらず、児童や利用者にとって最優先すべき要素である「安全性・安心感・利便性」から遠く、到底納得できるものではありません。
その背景には、「公共経営」の観点を最優先とした事業費の緊縮意識が根底にあると推察いたします。財政健全化への配慮自体は当然であり否定すべきものではありません。しかし、仮設校舎計画の中止(約7億円)によって削減された費用の1割程度(あるいはそれ以下)で実現可能と考えられる、最適案としての「グラウンド北側(造成)配置」への検討すら全くなされていないことは、より良い施設づくりの可能性を自ら閉ざしてしまっていると言わざるを得ません。
本来、建築計画は「か・かた・かたち(概念・方法・詳細)」という段階的思考を基本とすべきです。しかし、今回の配置案は、その中核である「かた(方法・型)」における多角的な検討が不十分であり、現況地形の維持に終始しています。その結果、使い手にとっての機能性や利便性、安全性という最も重要な課題が未解決のまま残されています。
工事費の抑制や開発工事の最小限化、あるいは設計期間の短縮といった「施工・設計側の事情」を優先した計画は、現在の利用者への配慮を欠くだけでなく、建物の長寿命化により80年先まで利用することになる未来の子供たちや地域住民に「最良の資産」を残すという観点からも、決して受け入れられるものではありません。本質的な価値を見据えた配置計画の再考を強く求めます。
3.現状に至る経緯と発注方式選定の不適当さについて
本事業の現在に至るプロセスについて、地元設計事務所としての関わりと時系列を踏まえ、その構造的な問題点を指摘いたします。
令和6年9月、地元設計事務所としてPPP/PFIの勉強会案内を受領し、翌10月に参加いたしました。その後、11月のサウンディング(インタビュー)を経て、「倉知小学校等複合化施設の整備提言書」を提出いたしました。
令和7年3月付の「倉知小学校等複合化施設整備事業 基本構想」では、施設の公共性と重要性を考慮し、事業方針として「設計・建設(デザインビルド方式)」によるプロポーザルの実施が示されました。しかしその後、地元建設業界の意向を汲む形でデザインビルド方式のプロポーザルは突如中止となり、令和5年度の基本設計に基づく実施設計の「指名競争入札」が令和7年7月に執行されました。その後、教育総務課が主体となり実施設計が進められる中、同年11月の「地域ミライとーく」において、基本構想の問題点指摘と敷地特性を考慮した計画案を再提案いたしましたが、それらは反映されず、現在のワークショップで提示された配置案に至っています。
この経緯における最重要の問題点は、本来「設計プロポーザル」によって最適案を公募すべき極めて難易度の高い事業であるにもかかわらず、そのプロセスを軽視し、価格重視の「指名競争入札」を採用した点にあります。この判断は、設計・営繕計画を専門的に管轄する「管財課」ではなく、「教育委員会」主導で進められたと聞き及んでいます。
一般に「設計プロポーザル」は、多角的な比較検討から魅力的な最適案を募り、選定後も対話を重ねて質を高める仕組みです。一方、「指名競争入札」は最低価格(基準内)での落札を前提とするため、空間の質や安全性を追求するよりも、与えられたプログラム通りに効率を重視し、手戻りを回避する設計に終始せざるを得ない傾向があります。
通常、自治体の公共建築においては、建物の特性や難易度に応じて発注方式を厳格に使い分けるべきです。今回のような、前例のない複雑な複合用途施設において、十分に詰められていない基本設計案をもとに実施設計を入札に付したことは、公共建築の質を担保する観点から極めて不適当であったと考えます。
4.行政の姿勢と公共施設のあり方について
本事業の経緯を省みるに、地方自治体における「建築」の歴史的認識や建築文化の継承は、その地域の文化度を測る重要な指標であると考えます。しかし昨今、少子化や人口減少に伴う行政経営の効率化を背景に、専門技術職の業務を過度に外部委託する傾向が見られます。その結果、自治体の建築担当部局において建築の歴史・文化・技術を修めた専門技術者が減少し、委託業務の事務処理を主とする体制へと変質しつつあります。本来、都市計画や地域の実情に即した「まちづくり」を主導すべき文脈において、管財的な発想が先行し、地域の建築文化や公共空間の質への配慮が希薄化している現状には強い危機感を抱かざるを得ません。
建築は、個人の住宅から大規模な複合施設、さらには街区計画に至るまで多岐にわたり、その規模や目的に応じて必要な専門性と業務量が大きく変動します。関市が人口減少時代を見据え、地域コミュニティと一体となった学校複合施設づくりの先駆的なモデルを目指すのであれば、複雑なプログラムを市民と共に創り上げていく必要があります。そのためには、ソフト・ハードの両面において、丁寧な対話と検証、そして合意形成を積み重ねるプロセスが不可欠です。
一般に、中大規模の複合建築設計においては、「企画・プログラム策定 → 基本構想 → 基本設計→ 実施設計」という段階的なプロセスを順に踏むことで、建築の質と確実性を担保します。しかし、今回の関市における手順は、「基本設計の着手、基本構想やPPP/PFIの検討、デザインビルド(プロポーザル)の中止、実施設計の入札、設計条件の変更(仮設中止・配置変更)」といった変遷をたどっており、手順の逆転や混迷を重ねていると言わざるを得ません。建築設計における本来の手順や検証が十分に積み上げられていないため、計画の本質的な深みが欠如しています。これでは、数年で異動となる行政職員による、その場しのぎの硬直化した運用の進め方であるかのような印象を外部に与えかねず、極めて遺憾です。
一昨年から継続して提出している提言を踏まえ、今回の「設計ワークショップ提案書」の内容を深く吟味されるよう強く求めます。設計者(つくり手)と市民・利用者(使い手)の双方にとって、将来にわたり後戻りと後悔のない、質の高い設計内容へと昇華させていただけるよう、重ねて切望いたします。
NT建築計画事務所 沼田 叡良
設計ワークショップ 配布資料(PDF)

